歯を削りながら頑張る友へ
会うと必ず仕事の話から始まる友は、相変わらず忙しそうで、「体が疲れてきついのは平気だけど、頭が疲れすぎていて辛い」とこぼしていた。
温厚なはずなのに、自分を振り返って猛省するほど穏やかじゃない日々が続いていたようで、「最近ずっと口の中がじゃりじゃりすると思っていたら、気づかないうちにずいぶん食いしばっていたみたいで、歯が欠けていたみたい」と笑っていた。
毎日忙殺されすぎて痩せたと言うから、どれだけ痩せたのかと数字を聞いてみたけれど、(それは健康診断のために禁酒して浮腫みがとれただけだろ…)と心の中で呟いた。
つまり見た目は大して変わっていない。笑
家族にも話していないという話をポロリと口にしながら、やるせない気持ちを振り払うかのような攻撃的な振る舞いに理不尽さを感じて『私にぶつけないでよ』と言うと、「他の誰にもぶつけられないんだから助けてよ」と返ってきた。
特別だと言われているみたいで、そう勝手に解釈した私はにっこりして再びお酒を飲み始めた。
別に助言を求めているわけではないだろう話にも、私は必ず持論を述べるようにしている。
「どう思う?」と訊かれることはあるが、訊かれても訊かれなくても最後まで話を聞いてから、私ならどうするかを話す。
『頑張ってるね』は多分求めていなくて、違う視点の考え方を欲していると思うから、かなりの確率でダメ出しをする(笑)
「そういう考え方があるのかっていつも参考になる。ありがとう。やってみる」と本当に素直で、会社でピリついて売られた喧嘩は全部買っていたという話は到底信じられない。
元来そういう性格ではないはずだから。
横に並んで座り、やたら視線を感じてちらりと見ると必ずニコニコ笑っている。
『なに笑ってるの』と冷ややかな目で見て冷たく言い放つ私に対して、「なんでもない」と言いながらまたニコニコしている。
毎度のことながら、よほど私のことが好きらしい(笑)
肝試し行ったね〜とか、びっくりラーメン行ったね〜とか、懐かしい話もちょいちょい挟みながら、私はやっぱり仕事の話を聞くのが好きで、愚痴半分の変な人シリーズは面白くて舞台を一本観たくらい満足度が高い。
「笑いごとじゃないんだって」と言うけれど、面白おかしく脚色しながら話すんだから仕方ない(笑)
そんな人たちに囲まれて毎日過ごすなんて、そりゃ歯も欠けるわ…と思うけれど、「勤続18年かぁ。頑張ってきたよなぁ。恩返しもしていかなきゃな」といたってポジティブで、辞めるという選択肢は全くないようだから感心する。
大きな声を出すこともなく、声を荒げることもなく、「楽しい」とか「美味しい」とかの感情も伝わるには伝わるけれど、あまり空気感や温度も変わらず終始一定である不思議さ。
そこが魅力ではあるけれど、それにしてもお経ですら抑揚や強弱があるのに、どの場面でも終始凪のようで、だからこそ一緒にいても疲れない。
そういう友がいることが、普段の私の支えになっている。
話を聞くに、40年積み重ねてきた心地よい自分像と俯瞰してみた自分とのギャップで、自分に対してもよくわからない感情が湧き上がっていて、立場と体裁と理想と現実と…整理もできない捨てもできない状況にとにかく苦しそうだ。
それでも相手の立場に立って理解しようと努め寄り添おうとしているから、やっぱり優しいんだろうなと思う。
立場上、お偉いさんと年下からは好かれ、いわゆる部下にあたる年上からはやっかまれていそうだ。
仕事ができる優秀な役職付きの宿命だね。
うまい酒を飲みながら、また話そう。
半年に一度会えればいいほうだから、次に会うのは初夏だろうけど(笑)
それまでに変な人シリーズのネタ溜め込んで、また笑い転げさせてくださいな🍀
あっちでもこっちでも不憫な感じだけど、それすらも縁だと思って踏ん張っているのを偉いなって思うよ。
ゆるりゆるりと紡ぐ時間が心地よかった。
いつもイイ時間をありがとね。
mana