笹団子

体育館からの電話は
いい話だったことがないので
いつも出るのに躊躇します。

あの日も嫌な予感がしながら電話をとったら、
「先生・・・実はクレームというか要望というかがありまして」

左右のどちらの足を出せばいいのか
毎回キューを出してほしい
というものでした。

キューは口頭かハンドのどちらかで必ず出していますし、わかりやすいと言われることはあっても、「反応できない」と言われたことはなかったので、若干落ち込んだのを今も覚えています。

次の週、
動きが変わるごとに
『あと4回足を置いたあとに、さらに右足から踏みますね。では、あと2回踏んだら右足を出します。行きまーす!せーのっ!右!』
口頭とハンドをめいいっぱい使って、
しつこいほどのキューイング。

終わった後、
「先生?とてもわかりやすくて、聞き取りやすくて、楽しかった!最高っ!素晴らしいわ👏」
そんなふうに言われ、ほっとしました。

さらに次の週からレッスン後に毎回フィードバックをいただけるようになり、そのどれもが私にとって最上の褒め言葉のオンパレードでした。

先生と呼ばれたのは最初の一回だけで、
いつしか「師匠」と呼ばれるようになりました。

「師匠に色々と教わって試しているうちに体がどんどん変わっていくのがわかって、なるほどな〜って毎回感心するのよ」

「だんだんと腹が立ってくるわ。学校教育の体育は一体何を教えているの。こういうこと(コンディショニング)をもっと早く教えてもらえていれば、もっと体が楽だったはずなのよ。この歳になって教えてもらっちゃったら、もっと遊びたい意欲が湧いてきちゃうじゃない」

「普段ふとした時に、あっ師匠が言ってたことってこういうことか〜ってストンと腑に落ちるのよ。そうすると、なんだか嬉しくなっちゃう。私の体まだまだ頑張れるわね!」

「師匠、あなたの体はおかしいわ。なにその動きって見惚れてる間にもう次の動きにいっちゃってて、ぽか〜んよ。一体何を食べたらそんな体になるの。奇妙だわ」

「毎回違う動きが出てきて、玉手箱のようね。次は一体どうやってびっくりさせてくれるのかって毎回楽しみだわ。できなくて悔しいけど。今日もジタバタさせてくれてありがとう」

「あと10年も20年もやれそうな気がする。師匠のレッスンで悔しい思いをしながら、よし!やってやるぞー!負けるもんかー!って頑張るわ」

2021.10.21のブログ

2021.7.30のブログ

昨年ブログにちょこっと書いたことがあります。
78歳のお客様。

2022.10.20のレッスン
「美味しそうな笹団子ぶらさげて、今日は笹団子に目がいって集中できなかったわ。どうせぶら下げるならもっとふっくらと美味しそうにしなさいな」

玉ねぎにするでもなくただゴムでいくつか玉を作っていた雑なアレンジを見て、次回はもう少しましな笹団子にしてくるように言われました。

2022.10.27
「師匠?あなた、笹団子忘れてきたわね」

約束をすっかり忘れて
でっかい団子ひとつにしていた私を見て、
目を吊り上げながら
「師匠も忘れることがあるのね」
って笑っていました。

2022.11.3は文化の日で教室がお休みのため、
また忘れないようにスケジュールに入れた10日の【笹団子】

2022.11.10
忘れずに笹団子頭で出勤。
あれ?いない。

2022.11.17
忘れずに笹団子頭で出勤。
あれ?今日もいない。

2022.11.24
忘れずに笹団子頭で出勤。
あれ?今日もいない。さすがにおかしい。

心配になってスタッフに来館記録をチェックしてもらうと、最後の来館履歴は10月30日でした。

2022.12.1
笹団子頭で出勤するのはやめ、
『3週連続で笹団子ぶらさげてきたんだよ!』
と目を吊り上げて笑って言うつもりで入室。
今日もいない。

2022.12.8
やっぱりいませんでした。

そして今日、
お亡くなりになっていたことを
教えていただきました。

実は嫌な予感がして、
来館最終記録日以降のおくやみで
名前がないか見ていました。

けれど、見つけられなかった。

天守閣を観に行った旅先で
お亡くなりになったそうです。

『楽しいことをして、良い気分のままお亡くなりになったのがせめて…ね…』
そうかもしれないけれど、
「体が変わって、体の動かし方のコツがわかってきたから、これからもいろんなことに挑戦したい」って言っていたのに。

とても悲しいです。

最近は耳が聞こえにくかったようで、
近くで話しかけても気づいてもらえなかったり
心配なこともありました。

プライベートまで関与できませんが、
それでも
『気をつけてね』は言えたはずなのに
伝えたことがありませんでした。

何か伝えていたら
変えられたこともあったかもしれないのに。

【健康】そのものだと思っていたので、
また来週も会えると思って油断していました。

「来週は必ず笹団子ね。ぷっくらと膨らんだ美味しそうなやつ」

『忘れないようにスケジュールに入れたから、大丈夫っ♪』

約束が果たせないまま
さよならなんて思ってもみなかった。

いつもの場所、定位置。
しばらく誰もそこにいかず、空いていました。

みんなが待っていたのに。

心や想いはきっとそこにある。

毒混じりの最上の褒め言葉は
もう聞けないけれど、
お叱りを受けないように頑張ります。

「師匠は、自分の会社とかスタジオとかは持っていないの?なぁに?持っていないの?なにサボってんのよ。もっと働きなさい」

精一杯生き抜きます。

いっぱい動き回ってきたと思うので、
ゆっくりお茶でも飲んで
しばらくのんびり過ごしてください。

山の頂上までの手書きの地図、
欲しかったなぁ。

師匠、初めて小言申し上げます。

mana

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